異俗第二十

絶學無憂。唯之與阿、相去幾何。善之與惡、相去何若。人之所畏、不可不畏、荒兮其未央哉。衆人煕煕、如享太牢、如春登臺。我獨怕兮、其未兆、如孾兒之未孩、乘乘兮、若無所歸。衆人皆有餘、而我獨若遺。我愚人之心也哉、沌沌兮。俗人昭昭、我獨若昬。俗人察察、我獨閔閔。忽兮若海、漂兮若無所止。衆人皆有以、而我獨頑似鄙。我獨異於人、而貴食母。

(がく)()てば(うれへ)無し。()()と、(あひ)去ること幾何(いくばく)ぞ。善の惡と、相去ること何若(いかん)。人の(おそ)るる所は、畏れざる可からずも、(くわう)として其れ未だ()きざるかな。衆人煕煕(きき)として、太牢(たいらう)()くるが如く、春に(だい)に登るが如し。我獨り(はく)として、其れ未だ(きざ)さず、孾兒(えいじ)の未だ(がい)せざるが如く、乘乘(じようじよう)として、()する所無きが若し。衆人皆(あまり)有り、(しか)るに我獨り(わす)れたるが若し。我愚人(ぐじん)の心なるかな、沌沌(とんとん)たり。俗人(ぞくじん)昭昭(せうせう)たるも、我獨り(くら)きが若し。俗人察察(さっさつ)たるも、我獨り閔閔(びんびん)たり。(こつ)として海の若く、(へう)として(とど)まる所無きが若し。衆人皆()す有り、(しか)るに我獨り(ぐわん)として()なるに似たり。我獨り人に異なりて、母に(やしな)はるるを(たつと)ぶ。

  • 唯=直ちに応ずる丁寧な返事。日本語の「はい」。
  • 阿=乱暴な返事。大声で怒気を含んだ乱暴な返事。
  • 衆人=世人。
  • 煕煕=やわらずさま。
  • 太牢=牛・羊・(いのこ)(いけにえ)を合わせ具えた料理。非常なごちそう。
  • 臺=(台)うてな。高い土台。物を載せる台1502。
  • 怕=なにもしないで、ぼうっとしているさま。
  • 孩=小児の笑うこと。
  • 乘乘=(繩繩)無限界なさま。きまった目標のないたとえ。
  • 沌沌=無知なさま。
  • 昭昭=賢くて抜け目がないさま。
  • 察察=潔白なさま。
  • 閔閔=汚れたさま。
  • 忽=心がうつろなさま。
  • 漂=漂泊。
  • 頑=融通がきかないさま。
  • 鄙=田舎者。

第21章:虛心

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