絶學無憂。唯之與阿、相去幾何。善之與惡、相去何若。人之所畏、不可不畏、荒兮其未央哉。衆人煕煕、如享太牢、如春登臺。我獨怕兮、其未兆、如孾兒之未孩、乘乘兮、若無所歸。衆人皆有餘、而我獨若遺。我愚人之心也哉、沌沌兮。俗人昭昭、我獨若昬。俗人察察、我獨閔閔。忽兮若海、漂兮若無所止。衆人皆有以、而我獨頑似鄙。我獨異於人、而貴食母。
學を絶てば憂無し。唯の阿と、相去ること幾何ぞ。善の惡と、相去ること何若。人の畏るる所は、畏れざる可からずも、荒として其れ未だ央きざるかな。衆人煕煕として、太牢を享くるが如く、春に臺に登るが如し。我獨り怕として、其れ未だ兆さず、孾兒の未だ孩せざるが如く、乘乘として、歸する所無きが若し。衆人皆餘有り、而るに我獨り遺れたるが若し。我愚人の心なるかな、沌沌たり。俗人昭昭たるも、我獨り昬きが若し。俗人察察たるも、我獨り閔閔たり。忽として海の若く、漂として止まる所無きが若し。衆人皆以す有り、而るに我獨り頑として鄙なるに似たり。我獨り人に異なりて、母に食はるるを貴ぶ。
- 唯=直ちに応ずる丁寧な返事。日本語の「はい」。
- 阿=乱暴な返事。大声で怒気を含んだ乱暴な返事。
- 衆人=世人。
- 煕煕=やわらずさま。
- 太牢=牛・羊・豕の牲を合わせ具えた料理。非常なごちそう。
- 臺=(台)うてな。高い土台。物を載せる台1502。
- 怕=なにもしないで、ぼうっとしているさま。
- 孩=小児の笑うこと。
- 乘乘=(繩繩)無限界なさま。きまった目標のないたとえ。
- 沌沌=無知なさま。
- 昭昭=賢くて抜け目がないさま。
- 察察=潔白なさま。
- 閔閔=汚れたさま。
- 忽=心がうつろなさま。
- 漂=漂泊。
- 頑=融通がきかないさま。
- 鄙=田舎者。